でんでんむしのかなしみ


文 新美南吉
絵 井上ゆかり
発行 にっけん教育出版社
初版 2005/5/15
対象年齢 5歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 29
発行部数 不明
オススメ度 B

でんでんむしのかなしみ のあらすじ・内容

2編の短編が収録されています。

『でんでんむしのかなしみ』
あるでんでんむしが、自分の殻に悲しみがつまっていることに気づきます。「もう生きていられません」と他のでんでんむしに相談しますが、どのでんでんむしも「自分の殻も悲しみでいっぱいだ」と返します。そこで最初のでんでんむしはある事に気づくのです。

『きょねんの木』
仲良しの小鳥と一本の木。木は小鳥の歌を聴くのが大好きです。冬の間暖かい地域に移動してしばし別れた後再び春にやってきた小鳥は、木のいたはずの場所に切り株を見つけます。小鳥が根っこに問うたところでは、木は木こりが斧で打ち倒して谷へ持っていったというのです。小鳥は今度は谷へ向かいます。谷には工場がありました。小鳥が工場の門に問うてみると、木は工場で切り刻まれてマッチにされ、あっちの村へと売られていったというのです。小鳥は今度は村へと向かいます。

でんでんむしのかなしみ の解説・感想

いずれもシンプルで地味で短いお話です。『でんでんむしのかなしみ』に関しては上記の概要でお話のほとんどを説明したようなものです。ストーリー自体は単純ですから子どもでも追っていくことはできると思います。でも疑問は色々持つでしょう。冒頭唐突にでんでんむしが自分の殻に悲しみがつまっていることに気づくのですが、これはこどもにしたら??となる事が多いでしょう。「どうして悲しいの?」と親御さんに訊いてくるかも知れません。2つの作品の内『でんでんむしのかなしみ』の方は特に観念的な作品です。でんでんむしの気持ちの推移でお話が進んでいきます。『きょねんの木』の方がより具体的なストーリー展開があって馴染みやすいかと思いますが、逆に小鳥の心情はまったく描写されていません。読者の想像に委ねられます。この2つのお話の組み合わせと順番がよく考えられているなと思いました。

表現されているのは、『でんでんむしのかなしみ』では、人生というものの悲しみとそれを背負って生きていくということ。そして『きょねんの木』では、命が巡り巡っているこの世の成り立ち。これはよほど感受性の強いこどもでもないとなかなか理解できないでしょう。それにそもそも悲しみに満ちた世界という見方を子どもに知らせる必要があるのかという疑問も当然あり得ると思います。

子どもだって普段の生活で悲しい気持ちになることもあるでしょう。でも悲しいという感情を客観的に見る機会はなかなかないかも知れません。それに悲しかったり辛かったりするのは自分だけじゃないよ、ということだけでも発見してもらえたら、ずっと強く優しくなれるのじゃないでしょうか。そう思って、難しいかも知れないけれど対象年齢を5歳からにしてみました。とは言うもののやっぱりかなり難しいでしょうけどね。逆に何歳ならいいのかというとこれもまた困ります。極端なことを言うと、多分大人でもこの物語を味わうことができない人はいるんじゃないかな。まあ読んでみて反応が悪ければあまり無理強いしないでいただければと思います。因みに私の子どもは反応が薄かったです。でも今あんまりわからなくてもいいんです。いずれまた自分で読み返す機会があればいいなと思います。

大人にとっても美しく静かな感動を与えてくれる良書と思います。

あとがきに、作者の持つとても興味深い児童観が書かれていました。

私達は子供を馬鹿にすることは出来ない。子供には子供の非常に厳粛な生活がある。

このような気持ちで書かれたであろう本作は、こどもに迎合するような虚飾を排してとてもシンプルでありながら人生の深みを伝えるものになっています。

これもあとがきに書かれていましたが美智子さまがこどもの頃にこの「でんでんむしのかなしみ」を読んでもらって、その後思いがけない時に何度も記憶によみがえってきた、と講演でお話されたことがあるそうです。何歳の時にご覧になったのかはわかりませんが、こんな風に心の隅にでもこのお話の印象が残っていたなら、ちょっぴり心に優しさを持てるようになる気がします。

でんでんむしのかなしみは本作の他にも絵本になっていると思います。私はこの絵が気に入ったので本作をご紹介させていただきました。儚く淡い夢の中のような美しい画風に、悲しみが昇華されるかのような気がします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。