ぼくはおこった


文 ハーウィン・オラム
絵・訳 きたむらさとし
発行 評論社
初版 1988/4/30(佑学社の出版時)
対象年齢 6歳から
文字の量 かなり少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 B

ぼくはおこった のあらすじ・内容

ある晩アーサーはテレビで西部劇を見ていました。夢中になっていて、最後まで見たかったのですが、お母さんが「もう遅いから寝なさい」と言います。アーサーが「いやだ」と言うと、お母さんは「怒りたければ怒りなさい」と放っておきます。

アーサーは怒りました。すると稲妻が走り雹が降り、家の中は嵐となってめちゃくちゃになります。お母さんは「もう十分」と言いますが、アーサーの怒りはまだ収まりません。

アーサーは家の外に出ました。すると街が嵐に襲われて、屋根やら看板やら教会の塔やらが吹き飛ばされました。街はめちゃくちゃになります。そこでお父さんが「もう十分」と言いますが、アーサーはまだ怒っています。

アーサーが怒ると今度は台風がやってきて、街全体が海に飲み込まれます。水面で漂流物につかまっておじいさんが「もう十分」と言いますが、アーサーはまだ怒ってる。

ぼくはおこった の解説・感想

ここからまだ予想を超えて怒りが爆発します

ここまでで既に予想外のお話の展開に驚く方も多いでしょう。しかし!まだ序の口なんです。さらに盛大にアーサーの怒りが爆発します。私にとっては今までになかったレベルで、ストーリーが想定外だった絵本です。読み進むにつれて、えっ!?、ええっ!?、えーっ!?といい意味で連続して期待を裏切られました。いや~スケールの大きい豪快なお話は面白いですね。それに容赦なくすべてが破壊されるのも、もはやサッパリしてて気持ちいいです。まるで台風が来る時の、不謹慎にもワクワクしてしまう気持ちに似た感情を抱いてしまいます。

限界を設けない発想

作者が絵本だからと当たり前に考えていたら、こんな絵本は世に出てこないでしょう。発想に限界を設けていないのは子どもの想像力を刺激しそうです。自由に突き抜けて考えることの楽しさを教えてくれますね。そしてその事は子どもの将来に役立つことになるかも知れません。

怒りとは

怒り即ちなくすべき悪しき感情というわけではないでしょう。義憤や公憤といった自分以外の者のための怒りもあれば、自分の権利を守るための怒りもあります。怒りが原動力になって社会が前へ進むこともあるわけです。アーサーの怒りは単にわがままを通したいのだと見るか、それとも自分の権利を守るためと見るか、立場によってどちらも正しいので考え出すと難しいですが…結局最後には怒った理由を忘れていることに気づきますから大したことではなかったのかな。しかしそれにしてはあまりに大きな代償(笑)。よくよく考えてみると怒りとはこの位の破壊衝動を伴うものなんでしょうね、普通は抑え込んでますけど。怒りが昂じるとそもそもの動機よりも怒る事そのものが目的化してしまうということもありがちです。怒りという感情はなくならなくてもいいけど、暴走しないようにある程度のコントロールは必要なんでしょうね。

怒りを否定せずに付き合ってくれる絵本

怒りという感情を否定せずに、とことん怒らせちゃうというアプローチは日本人にはなかなか思いつかないかも。外国の絵本ならではという気がします。大人が「もう十分」と何度言おうがそんなの関係ない。とことんまで怒りの感情に付き合ってくれます。そんな風に子どもを見守っている本とも言えるかも知れません。本書は、読者の子どもがネガティブな感情の処理の仕方を学ぶとか、周りに迷惑をかけないように怒らないようにしましょうねとかいう型にはまったいわゆる読書感想文的な教訓を得るための絵本ではないでしょう。(実は本書は過去に読書感想文コンクールの課題図書に選ばれた事もあるのですが。)ただ、本気で怒っているという状態を客観的な立場から見て笑い飛ばすという経験としてはなかなかな面白いと思います。怒った理由をいつの間にか既に忘れてしまっているというのも子どもの日常にありがちで(大人にもありますね。汗)いいオチですね。

大人としては

何でもかんでも子どもの言う通りでもダメでしょうが、一方でアーサーの気持ちも大人としては理解してやるべきなのだろうなという気もしました。因みに本書とは違いますが、子どものネガティブな感情をこれは悪いものだとして抑え込もうとすると、悪い影響があるという事を『ちゃんと泣ける子に育てよう』という本で学びました。

読書メーターに、私が『あっこれいいな!』と共感した本書の感想があるんです。それがこれ。

6歳から読み聞かせで。文章は簡単なので、低学年から理解できるだろうけれど、心情的には何だか深いものが描かれています。子どものパワーってすごい。それこそ地球が壊れてしまう程。ポニョも大津波を起こしたし、これ程の激情に真っすぐさに包まれているという事を大人は忘れてはならない。この本を気に入っている高学年の男子の気持ちが少しでもわかったら良いな…

ラストシーン。大人限定ですが、これはジョジョ第二部のカーズだ!と思う方は多いでしょうね(笑)

宇宙のことは前提知識として多少知ってて欲しい

年齢は6歳より小さくても大丈夫だろうとは思います。年齢よりも、地球とか宇宙とか惑星とかの概念をある程度知っているかどうかで楽しめる度合いが違ってくるでしょう。ウルトラマンとかで知ってますかね。

絵はイギリス在住の日本人が書かれています

元々イギリスで出版された絵本なのですが、絵を書かれたのがきたむらさとしさんというイギリス在住の日本人で、本書はそのきたむらさとしさんが翻訳もされています。細かく描き込まれた絵です。宇宙空間で編み物をするおばあさんなどユーモアもあります。

こちらもおすすめ

私はこの絵本の味わいがなんとなく『かいじゅうたちのいるところ』にも近いものがあるなという気がしました。本書の方が年齢的に低いかも知れないですけど、成長に伴う精神的な葛藤みたいな部分が共通しているように思います。よかったらこちらもご覧になってください。

どこまでいくかというと

この絵本の魅力を知っていただくには続きをお話した方がいいだろうと思います。次にアーサーが怒ると、地球にヒビが入って壊れてしまいます。宇宙空間でおばあさんが「もう十分」と言いますが、まだアーサーは収まりません。次にはアーサーの怒りは宇宙を震わせ、地球も月も星々も木っ端微塵に砕いてしまいます。宇宙空間でたまたま飛んできた火星のかけらとアーサーのベッドの上に座り込んで。さてなんで怒っていたのか?と考えますが、思い出せません。思い出せなくてベッドに潜り込んで寝てしまうのです。まるで漫画の『デビルマン』。ここまで広げた絵本を他に私は知りません。

 

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