【児童文学】ネコのタクシー


作 南部和也
絵 さとうあや
発行 福音館書店
初版 2001/5/25
対象年齢 小学校低学年~中学年
ページ数 88

ネコのタクシー のあらすじ・内容

走るのが得意な野良猫のトムは今までただの一度も寒い夜に暖炉の前で寝たり、ミルクをお皿でもらったりしたことはありませんでした。かつてまだトムが小さい頃、母親はよい飼い主をみつけることがネコにとって一番大事な事だと言っていましたが、それが今、身にしみて感じられました。

何軒かの家を訪ねるものの飼ってくれるところはありません。そして今度はランスさんの家にやってきました。ランスさんはタクシーの運転手です。一度は断ったランスさんでしたが、トムのがっかりした後ろ姿を見て考え直し、トムはランスの家で飼われることになります。

ある日ランスさんは階段を踏み外して骨折してしまいます。二ヶ月は仕事ができずその間の収入の目処がたちません。困ったランスさんにトムは小さなネコのタクシーを作ってくださいと頼みます。役に立つとは思えないランスさんでしたが熱心なトムの様子にタクシーを作ってあげることにします。そしてネコのタクシーが完成。エンジンはありません。足の速いトムが自分の足で走るのです。

ネコのお客さんを乗せて仕事をするトムでしたが、最初の内はタクシーの代金として、魚やらゴミのようなものやらネズミの死骸などをもらってきました。ネコにとって価値があるものでも、お金にはなりません。そんなある日乗せたお客さんから、ネコは1ポンド硬貨が落ちている場所を知っているとアドバイスをもらいました。料金を1ポンドに設定してタクシーにもそう表示すると、お金が稼げるようになってきました。ランスさんもトムの働きを認めるようになります。

トムのタクシーは、時には救急車の代わりになったり、宅急便の代わりになったり、ネコだけでなく人間の役に立つようにもなります。

ある日、トムは銀行強盗の現場に出くわします。銀行の人に1ポンドをもらったトムはトラックで逃げ去る銀行強盗を追いかけますが…

ネコのタクシー の解説・感想(若干ネタバレ注意)

ユーモアがあり、考えさせられたり、ハラハラドキドキする場面もあったり、細かいところまでよくよく考えられたストーリーでお子さんも引き込まれると思います。

私は子どもの頃は賢いイヌ派でしたが、大人になってからはどちらかと言うとネコ派になりました。自由で且つ人間臭いコミカルな性質が面白いと思うようになったからです。そんなネコが一丁前にタクシーをやり、お客さんも一丁前にタクシーを利用する姿は、ネコ好きならなおさら魅力を感じてしまうんじゃないでしょうか。表紙の絵なんか、トムがハンドルを片手で持ち、もう一方の手を窓の縁に乗せてお客さんに目を向ける姿勢が実にタクシーの運転手然としていてにゃんともかわいいではありませんか。

ネコを相手にどうやって稼ぐというのか読者の私自身半信半疑でしたが、実に説得力のあるアイデアで驚かされました。このアイデアでぐっと本作の面白みは増していると思います。黒澤明さんや宮崎駿さんの映画とかでも思いますけど、ディテールにおけるちょっとしたアイデアが生み出す面白さやリアルさって馬鹿にできません。トムの足で走るというのも、まあネコだから当然と言えば当然なんだけど、面白いしかわいいしその状況を想像すると楽しいですね。

トムは読者の子どもと似た立場です。飼い主(親)の庇護がなければ安心して生きていけません。でもそういう子どもの分身でもあるようなトムがランスさんの想像を遥かに超えて活躍する様は子どもにとって胸のすく、そして夢のあるお話でしょうね。ラストは町の人たちにも認められ、警察から正式なタクシーに貼るワッペンももらえるんですよ。大人に感謝され認められるという結末は子どもに喜ばれると思います。

仕事を描いてはいますが、仕事に付きものの理不尽や厳しさはこの絵本の中にはほとんど出てきません。あるのは①一生懸命取り組む事の大切さと②対価をいただくにはそれに見合った仕事をキチンとしなければいけないという矜持、そして③仕事とは人の役に立つという事だ、の3点。トムにも失敗はありました。キチンとした仕事ができなかったので代金はいただけないとトムはお客さんに話しますが、お客さんはトムのせいではないとして許してくれました。このお話は小学生の低学年からせいぜい中学年位までが対象でしょうから、上記の3点が伝わる事が大事で、理不尽な話とかはもっと先でいいのかなと思います。そういう意味で大事なところを押さえられていると思います。

作者の南部和也さんはネコ専門の獣医師をやっておられます。初めて書いた童話がこの作品です。『よい飼い主をみつけることがネコにとって一番大事な事だ』というのは獣医師のお仕事の中で痛感されていることなのかも知れません。またお金の単位がポンドであることからわかる通り、本作の舞台はイギリスの町がモデルになっているようです。イギリスは作者が初めて海外生活をしたところなのだそうです。そういう作者の実体験がベースになっているからか、ネコがタクシーをやるというファンタジーの中にもリアリティが感じられます。作者は他にもネコの活躍する童話をいくつも書いておられますし、ネコのタクシーの続編『ネコのタクシー アフリカへ行く』というのもありますよ。本作が気に入ったらこれらも読んでみてはいかがでしょうか。

絵もいいですよ。ユーモア、ハラハラドキドキ、暖かさと言ったこの物語の魅力が一層楽しめる素敵な挿絵です。

本の背表紙には『4歳から小学校初級向き』と書かれています。親が読んであげるなら4歳位からで、自分で読むなら小学校初級向きという事でしょうか。見開き2ページのどこかには必ず挿絵が入っていますが、絵本とまでは言えないと思います。88ページとボリュームもそこそこあります。全部で10章という構成になっていますので、読み聞かせるならお子さんの様子を見ながら、まずは1章ごとにという感じになるかと思います。自分で読む場合も1章ごとなら丁度いい位の分量かも知れませんね。ちょっと難しい漢字もありますが、すべてふり仮名がふってあるので自分で読む場合もひらがなとカタカナが読めれば大丈夫です。

小学校低学年向けの児童文学を他にもご紹介しています。 → 『大きい1年生と小さな2年生

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