チムとゆうかんなせんちょうさん


文と絵 エドワード・アーディゾーニ
訳 せたていじ
発行 福音館書店
初版 1963/6/1
対象年齢 5歳から 自分で読むなら小学校中級向き
文字の量 やや少なめ
ページ数 48
発行部数 不明
オススメ度 B

チムとゆうかんなせんちょうさん のあらすじ・内容

男の子チムは海のそばに住んでいます。船が大好きで、お天気のいい日はボートで遊んだり、ボートのおじさんから船の話を聞いたり。お天気が悪い日はマクフェ船長のところに行って航海の思い出話を聞いたりしています。

チムは船乗りになりたくてなりたくて仕方ありません。しかし両親にその事を話すと、笑ってまだ小さいから無理だと言うのです。

ある日、ボートのおじさんが、沖に停泊している大きな汽船に連れてってあげると言ってくれました。汽船の船長がおじさんの知り合いで、航海に出るのでお別れの挨拶に行くのだそうです。

二人で汽船に着いて、おじさんが船長のところに行っている間、チムはいい事を思いつきました。どこかに隠れていればおじさんは僕のことを忘れて一人で帰っちゃうんじゃないかな。そうすればそのまま船に乗っていられるぞ。チムの考えどおり、おじさんはチムを忘れて一人で帰ってしまい、チムは汽船に残ります。

やがてチムは船員に見つかります。船員たちは厳しく、船の仕事も大変でしたが、チムは一生懸命働き、徐々に認められていきます。

そんなある日、風が強くなり、波も荒くなってきました。初めの内チムも面白がっていましたが、さらにシケはひどくなり、船酔いで船室に寝込んでしまいます。そしてとうとう船は岩に衝突しほとんど横倒しのようになります。船員達はチムの事を忘れたまま救命ボートに乗り込んで避難していきました。

チムが船室から出てくると船長がいるきりでした。船長は既に死を覚悟して、最後まで勇ましくいようとチムに話しかけます。チムと船長は手を握って最期の時を待っていました。

チムとゆうかんなせんちょうさん の解説・感想

本作も何かに夢中な子どもが主人公

著者のエドワード・アーディゾーニさんの他の作品『時計つくりのジョニー』も以前にご紹介していますね。本作も同じように、何かが大好きで大好きで仕方がないある意味マニアックな子どもが主人公です。でも今回はその対象が船であり、海を舞台とした大冒険となるのです。

クライマックスはハラハラドキドキ

途中の経緯も、苦労あり、涙あり、でもあきらめず、で『時計つくりのジョニー』に似ています。ですが本作では、あらすじに書いたようにクライマックスに関してだけはかなりハードな展開になります。船がいつひっくり返ってもおかしくないような大シケに遭うのです。絵もなかなか緊迫感がありますよ。そしてその場面ではこんな文章が…

せんちょうにいわれて、チムは なみだをふいて、もう びくびくするものかとおもいました。このせんちょうといっしょなら、うみのもくずとなろうとも、かまわないと おもいました。

主人公が口には出さないもののこんな啖呵を切るような気持になるなんて、こんな絵本が他にもしあるとしたら硬派な新・講談社の絵本シリーズくらいしかないでしょう。ここだけは海の男の命と尊厳をかけた世界なのです。チムにとっては船長さんは海の男の中の男として映ったのでしょう。

私も船にまつわる仕事をしているので特に感じたのですが、昔はこんなだったんだなと驚いたところがあります。その後救助隊が来るのですが、それが小さなボートに8人でオールを漕いで助けにくるという、救助隊のほうが先にひっくり返りそうな状態なのです。現代の海上保安庁の船からするとあまりにも違いすぎます。今でさえ海難救助は危険な仕事だと思いますが、昔はとても大変だったんだなと思い知らされました。

子どもの夢を育む

ハードなクライマックスにばかり言及しましたけど、ハッピーエンドですからご心配なく。ラストのエピソードも『時計つくりのジョニー』に似た形になっていて面白かったです。このラストは子どもの夢を大いに膨らませてくれますね。子どもの面目躍如というところ。

家出の話は結構食いつきがいい

考えてみるとこのお話は一種の家出の話でもあります。家出の話は子どもにとっては面白く感情移入しやすいでしょう。大冒険ですし、家出を考えたことのない子どもなんてほとんどいないでしょうから感じるリアリティが違いますよね。そして船員たちはタダ乗りのチムをまったく子ども扱いしません。船長はチムを見ても親が心配してるだろうとかいう発想はまったくなく、タダ乗り扱いです。子どもの立場から見たら大きくて怖い大人ばかり。この辺りもとてもリアルで読者の子どもは物語に没入できそうです。

ちなみに家出の話は、(これは絵本じゃないですけど)『大きい1年生と小さな2年生』もご紹介していますよ。

フィクションだから言っても仕方ない話ですけど、それにしてもボートのおじさんにしても、船員達にしても、チムの事をころっと忘れちゃって何とも情けない大人たちで苦笑ものでした。

簡潔で丁寧でわかりやすい文章は瀬田貞二さんの訳。エドワード・アーディゾーニさんの絵はちょっとラフなタッチで独特な味があります。人物の顔なんてあんまり細かく描かれてないのです。でもそれが読者の想像力を引き出すのか妙にリアルでもあるんです。見開き2ページごとにカラーになったり、モノクロになったりするんだけど、これは何かの意味があるのでしょうか。ちょっとわかりませんでした。

エドワード・アーディゾーニさんのチムのお話は全部で11作あります。この絵本がその中の記念すべき第一作となります。気に入った方は是非続編も見てみてください。

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