島ひきおに


文 山下明生
絵 梶山俊夫
発行 偕成社
初版 1973/2/
対象年齢 8歳から
文字の量 やや少なめ
ページ数 32
発行部数 不明
オススメ度 B

概要
広い海にポツリと浮かぶ小さな島に一匹の大きな鬼が孤独に暮らしていました。たまに近くに鳥や船が見えると「遊んで行けー」と声をかけますが、誰も鬼の住む島になど来てくれません。

そんなある日嵐の中を漁師の船がこの島に難を逃れてきました。漁師は鬼に怯えますが、鬼は「今の暮らしが寂しいのでお前たちの島で一緒に暮らしたい」と相談します。しかしそんな申し出を受けるわけにはいかない漁師たちは「自分たちの島は狭いので鬼が自分の島を引っ張ってでも来ない限り一緒には住めない」と答えます。もちろんさすがにそんな事はしないだろうと思って。

ところが次の日から鬼は島を引っ張る準備を始めます…

 

感想(ネタバレ注意)
気のいい鬼なのです。表情を見てると人柄の良さがにじみ出ています。しかしそれでもさすがに鬼ですし、信用していいものなのかわかりませんから、人間の方はとても一緒に住むことはできません。鬼に言い訳をしたりあるいは策を弄し騙したりして鬼をたらい回しにします。拒絶された時の鬼の悲しげな表情は見ていて辛いものがあります。そして鬼はそれでもあきらめずにまた島を引いて海を彷徨い続けます。

せつないお話です。最終的にも何も解決されません。しかも誰が悪いとも言えません。しかし現実の世界ではこんな事は数多くあって、むしろキレイにさっぱりと割り切れる話の方が少ないでしょう。そう言えば、裁判制度というものは割り切れない話に強引に落とし所を決めるためのものだという主旨の話を何かで読んだことがあります。

ウチのこどもも小学校に入って毎日を楽しく過ごしつつも、今までにないような人間関係の難しさを感じる場面もあるのだろうと思います。そういう時期にこういうお話を読んでみるのもいいかなと思いました。そうしてこの不条理な悲しさを理解するだけでもいいのですが、どうしたらみんながハッピーになれるのだろうと考えて見るのもまたいいかと思います。マイケル・サンデルの授業のように。

作者の山下明生さんの故郷広島県に敷島という島があり、元々は引島と呼ばれていたそうです。鬼が引っ張ってきた言い伝えが由来です。言い伝えではここで鬼は力尽きて死んだのだそうです。しかしこの作品の中では鬼は死んでいません。やせ細って衰えて、島が波に削られてなくなってさえ、雲や月に向かって「こっちゃきてあそんでいけ」と風がなくように呼びながら彷徨っていたそうです。

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