さっちゃんのまほうのて


著 たばたせいいち 先天性四肢障害児父母の会(のべあきこ しざわさよこ)
発行 偕成社
初版 1985/10/
対象年齢 5歳から
文字の量 やや少なめ~やや多め
ページ数 40
発行部数 2010年時点で65万部
オススメ度 A

さっちゃんのまほうのて のあらすじ・内容

幼稚園に通うさっちゃんは明るく元気な女の子。もうすぐお姉さんになります。そして生まれつき右手の指が5本ともありません。

ある日幼稚園でままごと遊びをする時にお母さん役になりたかったさっちゃんですが、普段お母さん役をやる事の多いまりちゃんから「さっちゃんはお母さんになれないよ。手のないお母さんなんて変だ」と責められます。お父さん役の得意なあきらくんまでもが「おれ、おとうさんやーめたー」と言いました。傷ついたさっちゃんは走って家に帰ってしまいます。

家に帰ったさっちゃんはお母さんに「さちこの手はどうしてみんなと違うの?」と訊きます。胸がいっぱいになったお母さんでしたが、その理由と将来も指は生えてこないことを抱きしめながら話して聞かせます。

「さっちゃんはお母さんになれないよ」という友達の言葉が本当だったらと悩むさっちゃん。その後しばらく幼稚園を休みます。お母さんや心配して様子を見に来てくれた幼稚園の先生が話しかけても「いいの」と言うだけです。

さっちゃんのまほうのて の解説・感想

人の親なら心を揺さぶられるはず

前半は読んでいるといたたまれない気持ちになってしまいます。子どもって率直すぎてある種すごく残酷ですね。ですが後半、お父さんお母さん、赤ちゃん(さっちゃんの弟)、あきら君、幼稚園の先生などとのちょっとした会話や出来事によって、少しづつ立ち直っていくきっかけをつかんでいきます。最後はひとまずホッとするとともに、さっちゃんを応援したい気持ちでいっぱいになっていました。これは親御さんはかなり心を揺さぶられる絵本だと思います。

この絵本の唯一の欠点は、読み聞かせが難しいということです。どういう事かと言いますと、どうしても途中で涙がこぼれて声が詰まってしまう親御さん、多分多いと思います。でもそういう読み聞かせもお子さんには大きな意味があるのではないでしょうか。松岡享子さんの『えほんのせかい こどものせかい』に、『子どもに本を読んでやるとき、その声を通して、物語といっしょに、さまざまのよいものが、子どもの心に流れこみます。』と書いてあったのを思い起こすのです。

現実をしっかり知ることも必要

お母さんがさっちゃんに障害をもった経緯をキチンと話して聞かせています。そして成長しても指が伸びてくることはないことも説明しています。さっちゃんが障害を乗り越えていくにはごまかし無しでまず事実をしっかり知ることが必要でしょうから、これは大事なステップなのだろうと思いました。

しかし同時にこれを説明することも受け止めることも、そう簡単なことではないのだろうとも思いました。読者の中には障害を持つお子さん、そしてその親御さんもおられるでしょう。現実としてさっちゃん家族と同じような葛藤の中にある方もおられるかも知れません。そんな方達にこの絵本が応援歌として響くといいなと思います。

障害のない読者の子ども達に対しても、障害というものを理解する上でここは重要なくだりであったと思います。知らないという事は偏見の元です。ここでは子どもにもわかりやすく説明されていると思います。

本書の著者は田畑精一さんの他に、先天性四肢障害児父母の会のお二人も名を連ねています。この絵本が作られた背景として、先天性四肢障害児の方が社会で明るく元気に生きられるようにという願いがあったのでしょう。障害児のためにも、その親御さんのためにも、そして障害のない子どものためにも、意味のある絵本だと思います。

人の気持ちを考えられる子どもになってほしい

子どもはこれを読んで何を感じ、何を得るでしょうか。さっちゃんだってこれで完全にふっきれるわけではなく、これからいくども悩みながら成長していくのでしょうから、絵本を読んだだけのこどもが何でもかんでもこれで理解できるはずもないでしょう。ただ少なくとも、人の心をえぐる冷たい言動が何をもたらすかを知ってほしいと思いました。子どもはただ率直なだけで根っこから非情なわけではないでしょう。この絵本を読んで、人の気持ちを考えられる優しい気持ちを育てていって欲しいです。

”まほうのて”とは

タイトルにある”まほうのて”というのは実はさっちゃんのお父さんがさっちゃんに言った言葉なんです。さっちゃんの手を握っていると、不思議な力がお父さんの体に満ちるというのです。それは適当な話じゃなくて本当のことでしょう。私もそうだしほとんどのお父さんみんなそうでしょう。しかし大事な時に照れないでこういう事をしっかり伝えられるのはすごい。ホントにすごい。いいお父さんだね。

謝るって

あきらくんが後に突然さっちゃんの家に現れるシーンがあります。あきらくんは普段暴れん坊なんだけど、この時ばかりは蚊の鳴くような声です。多分謝りにきたんだけど、うまくできずにさっちゃんにチョコレートを一粒手渡して逃げるように帰っていきます。謝るってなんなんでしょうね。謝ったって過去の失敗をなかったことにする事はできません。謝るって自分のため?相手のため?礼儀だから?考えるとなかなか難しい。この場合、あきらくんはさっちゃんの事を大事な友達だと思ってるから謝らずにいられなかったんでしょう。さっちゃんもその気持を受け止めたようです。どちらもいい経験になったように思います。そしてこれがさっちゃんが立ち直っていくきっかけの一つにもなっています。私はこのシーンが大好きです。

ストーリーも絵も素晴らしい

この絵本がいいなと思うのは、障害そのものに重点を置きすぎずに普段の生活を描いたところ。障害がきっかけにはなっていますが、あくまでもさっちゃんという一人の人間の挫折と再起の物語です。だから誰しもさっちゃんに感情移入し応援したくなるし、障害というものが変なものではなく人間個々の違いとして受け止められやすくなっているとも思うのです。

読み物としてとてもよくできてます。(偉そうですが。汗)ドラマのように細かい印象深いエピソードが積み重ねられています。とても濃い内容です。読者の子どもにとっては説教のように感じることなく、お話自体も楽しめると思います。絵もこども達の心情がいきいきと伝わってきます。特にさっちゃんの場面場面の表情を見てると大の大人が感情移入してしまいますよ。田畑精一さんの本は今までも読んだことがあったのですが、この本を手にしてから好きな作家さんの一人になりました。

2010年時点ですが発行部数が65万部に達しているそうです。正直なところ障害という重いテーマを扱った絵本が商業的に成功する可能性はあまり高くないのではないかと想像されます。にも関わらず、発売から25年で65万部達成というのは、この絵本が色んな面で優れたものだということを表しているように感じます。将来的にはミリオンぶっくに加わる可能性もあるのではないでしょうか。そうしてますます多くの人の目に留まったらいいですね。

著者の略歴を読んで

著者のお一人、しざわさよこさん。カバーに書かれた略歴を見ると、実はご自身が障害を持っておられるのです。さっちゃんと似た左手指欠損とのことです。そしてさらに『2児の母』と書かれています。しざわさよこさん自身が、さっちゃんがお母さんになれることを証明されているようです。

ご参考まで、先天性四肢障害児父母の会のサイトへのリンクを貼っておきます。 → こちら

田畑精一さんの作品を他にもご紹介しています。 → タグ『田畑精一

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